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都心に存在するという「バー ラルム」は神出鬼没のバー。そこを見つけられることができるのは、
選ばれた人だけ。なぞめいた美人オーナーの出すアロマチックなおしぼりは、その人の心を解き放ち、向かうべき場所へと導いてくれます。今宵、その扉を開けるのは、「あなた」かもしれません。
 
 
第十一回 思い出の蓋

  神々の嫉妬をかってしまうほど美しい島、ピピ島。

  極彩色の花が咲き、瑠璃色の鳥が鳴く島で、僕と結衣は帯を織るよう、思い出を紡いでいた。

  出会いは吉祥寺にある彼女が経営する小さなカフェ『レモングラス』。僕のホームページを見た結衣が、カフェで毎月行われるミニライブへの出演依頼をしてきたことが最初のきっかけだった。当時の僕はインディーズでCDを出したばかりの名も知れぬギタリストで、警察の目を盗んで路上ライブをやるのがせいぜいだったので、彼女からのありがたい依頼に二つ返事で承諾した。

  打ち合わせと下見を兼ねて彼女のカフェの扉を開けた時、爽やかなレモンの香りが僕を包んだ。目をつぶり、深呼吸しているところに、洗いざらしの麻のシャツを着た結衣が僕の様子を見て笑いながらあらわれた。

  それは本当に一瞬のこと。

  僕は彼女に恋をした。

  結衣から聞いて知ったのだが、その香りはレモンではなく、レモングラスだった。「レモン以上にレモンの香りがある」と言われるレモングラスに、僕はすっかりだまされていたわけだ。なんでも彼女は大学の卒業旅行でタイに行って以来、タイ料理の魅力に取りつかれ、この店を出すまでになったという。メニューを見ると、パパイヤのサラダやタイカレーといったタイ料理がいくつかある。現地の料理教室で習った料理はどれも本格派で、いずれはタイに移住したいなど、結衣は遠い異国の話を呼吸するかのようごく普通に話した。僕はレモングラスのハーブティーを飲みながら、ライブの打ち合わせはほぼそっちのけで、彼女の話に聞き入っていた。


 
葉石かおり
葉石かおり
(はいし・かおり)
エッセイスト
プロフィール
  ラジオレポーター、女性週刊誌の記者を経て、現職に。利酒師、焼酎アドバイザーの顔も持つ。
  「おひとりさま」のエキスパートとして各メディアで活動中。ひとり時間を豊かにする「おひとりさまマガジン」を主宰。
  現在、東京と京都の半々暮らし。
  西陣の老舗呉服屋・宮崎織物とコラボしたメイドイン京都ブランド「和をん」では手ぬぐい、帯ほか、酒小物も販売予定。
  近著に「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」(集英社)がある。
  また京都を舞台にした携帯小説「酒亭 心酔」がブックスレジモにて近日公開。
著作
「日本全国この日本酒がウマい!」
(KKベストセラーズ)
「隠れ酒がうまい!」
(講談社)
*「女は年下男が好き」
(講談社)
「あなたが辞めるといった時、上司は止めてくれますか?〜ゆるキャリのススメ〜」
(講談社)
*「ビバ!!年下婚」
(光文社)
「30代からの結婚がハッピーになれる!」
(三笠書房)
*「かっこいい女はおひとりさま上手」
(PHP研究所)
「実践!おひとりさま道」
(ライブドアパブリッシング)
「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」
(集英社)
「大人の蕎麦屋はここにある」
(集英社)
「産まない理由」
(イースト・プレス)
*は台湾、中国、韓国にて翻訳出版
 
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