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都心に存在するという「バー ラルム」は神出鬼没のバー。そこを見つけられることができるのは、
選ばれた人だけ。なぞめいた美人オーナーの出すアロマチックなおしぼりは、その人の心を解き放ち、向かうべき場所へと導いてくれます。今宵、その扉を開けるのは、「あなた」かもしれません。
 
 
第五回 ふたたびの恋

  そうした思いは次第に“凶器”と変化していった。電話がつながらないと不安になり、つながるまでかけ続けてしまう。休日に会えないと言われれば、浮気をしているのかと疑う。自分と会うことがまるで義務のごとく、隆に傲慢な思いを押し付けた。

 「俺は昔の…、高校時代の夏樹が好きだった」

  そう言った後、隆は続けざまに、「わかれたい」と小さな声で言った。泣きながら懇願する私に彼は、「もしやり直せる自信がオレに残っていたら、夏樹の誕生日に連絡する」と諭すようにつぶやいた。実はその日こそ、今日。朝から微動だにしない携帯にしびれを切らし、街をさまよっていたら「バー ラルム」にたどり着いた。まもなく今日が終わる。やはりもう私たちは、一緒に歩むことができないのかもしれない。

 「お待たせしました。こちらでいかがでしょうか?」

  女性バーテンダーが目の前に置いたカクテルは、フローズンタイプのものだった。ひと口飲むと、不安と焦りで熱くなった心が不思議と落ち着く。同じグレープフルーツでも、こうして飲むと趣が変わるのだと、改めてプロの腕に感心した。

 「なめらかですごくおいしいです。カクテルというより、スムージーみたい」

 「ありがとうございます。ミキシングを丁寧にすると、絹みたいな質感になるんです」

 「いつも飲んでいるカクテルとは別物です」

 「この仕事をしていると、食材っておもしろいなあって、いつも思うんです。形を少し変えただけでまったく違うものになる。溶けてしまえば元のグレープフルーツで、本質はまったく変わらないんですから」

  私は彼女の話を聞いて、まったくだとうなずいた。料理の仕方によって、食材はいかようにも変化する。作り手によって、食材はおいしくも、まずくもなるのだ。
 
葉石かおり
葉石かおり
(はいし・かおり)
エッセイスト
プロフィール
  ラジオレポーター、女性週刊誌の記者を経て、現職に。利酒師、焼酎アドバイザーの顔も持つ。
  「おひとりさま」のエキスパートとして各メディアで活動中。ひとり時間を豊かにする「おひとりさまマガジン」を主宰。
  現在、東京と京都の半々暮らし。
  西陣の老舗呉服屋・宮崎織物とコラボしたメイドイン京都ブランド「和をん」では手ぬぐい、帯ほか、酒小物も販売予定。
  近著に「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」(集英社)がある。
  また京都を舞台にした携帯小説「酒亭 心酔」がブックスレジモにて近日公開。
著作
「日本全国この日本酒がウマい!」
(KKベストセラーズ)
「隠れ酒がうまい!」
(講談社)
*「女は年下男が好き」
(講談社)
「あなたが辞めるといった時、上司は止めてくれますか?〜ゆるキャリのススメ〜」
(講談社)
*「ビバ!!年下婚」
(光文社)
「30代からの結婚がハッピーになれる!」
(三笠書房)
*「かっこいい女はおひとりさま上手」
(PHP研究所)
「実践!おひとりさま道」
(ライブドアパブリッシング)
「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」
(集英社)
「大人の蕎麦屋はここにある」
(集英社)
「産まない理由」
(イースト・プレス)
*は台湾、中国、韓国にて翻訳出版
 
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