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都心に存在するという「バー ラルム」は神出鬼没のバー。そこを見つけられることができるのは、
選ばれた人だけ。なぞめいた美人オーナーの出すアロマチックなおしぼりは、その人の心を解き放ち、向かうべき場所へと導いてくれます。今宵、その扉を開けるのは、「あなた」かもしれません。
 
 
第四回 遠い記憶

  「紅茶、お好きなんですか?」

  「ええ、まあ。私というより、母ですけどね」

  「親子ですね」

  「え?」

  「年を重ねると、不思議と親の食の好みが似てきますよね」

  彼女の言う通りだった。

  紅茶はもちろん、昆布のつくだにやギンダラの粕漬けなど、最近になって、母が好むものを私も選んで食べているような気がする。あれほど毛嫌いしていたはずなのに、食の好みや姿が年々母に似てくる自分に私は戸惑いさえ感じていた。

  「母親は無意識のうちに、子どもの舌に記憶を残すそうです」

  「舌に・・・記憶ですか?」

  「はい。自分という存在を脳だけではなく、舌にも残すためだそうです」

  ふと、舌に母の作った甘い卵焼きの味がよみがえってきた。

  紗枝は卵焼きをほとんど口にしなかったが、私は他のおかずを差し置いて、そればかりを食べていた。醤油のしょっぱさと、砂糖のまじった何ともいえない微妙なバランスを保った卵焼きは、冷めてもおいしく、すんなりと私の胃袋におさまった。母は何も言わなかったけれど、よほど嬉しかったのだろう。運動会や遠足のお弁当には、あたりまえのように卵焼きが弁当箱の大半を陣取るようになった。

 
葉石かおり
葉石かおり
(はいし・かおり)
エッセイスト
プロフィール
  ラジオレポーター、女性週刊誌の記者を経て、現職に。利酒師、焼酎アドバイザーの顔も持つ。
  「おひとりさま」のエキスパートとして各メディアで活動中。ひとり時間を豊かにする「おひとりさまマガジン」を主宰。
  現在、東京と京都の半々暮らし。
  西陣の老舗呉服屋・宮崎織物とコラボしたメイドイン京都ブランド「和をん」では手ぬぐい、帯ほか、酒小物も販売予定。
  近著に「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」(集英社)がある。
  また京都を舞台にした携帯小説「酒亭 心酔」がブックスレジモにて近日公開。
著作
「日本全国この日本酒がウマい!」
(KKベストセラーズ)
「隠れ酒がうまい!」
(講談社)
*「女は年下男が好き」
(講談社)
「あなたが辞めるといった時、上司は止めてくれますか?〜ゆるキャリのススメ〜」
(講談社)
*「ビバ!!年下婚」
(光文社)
「30代からの結婚がハッピーになれる!」
(三笠書房)
*「かっこいい女はおひとりさま上手」
(PHP研究所)
「実践!おひとりさま道」
(ライブドアパブリッシング)
「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」
(集英社)
「大人の蕎麦屋はここにある」
(集英社)
「産まない理由」
(イースト・プレス)
*は台湾、中国、韓国にて翻訳出版
 
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