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都心に存在するという「バー ラルム」は神出鬼没のバー。そこを見つけられることができるのは、
選ばれた人だけ。なぞめいた美人オーナーの出すアロマチックなおしぼりは、その人の心を解き放ち、向かうべき場所へと導いてくれます。今宵、その扉を開けるのは、「あなた」かもしれません。
 
 
第四回 遠い記憶

  母との距離を決定的にしたのが、父の死だった。3年前、唯一の私の味方だと思っていた父が亡くなる寸前に、紗枝の二番目の子どもがお腹にいる際、自分の名前の一文字を託していったのだ。生まれたその子は父の生まれ変わりとして母に溺愛され、そしてその子を産んだ紗枝は、ますます母と親密になっていった。

  できそこないの娘。

  紗枝が輝けば輝くほど、私を覆う影は色濃くなり、コンプレックスは雨雲のように心の中へと広がっていった。

  せっかくバーに飲みに来ているというのに、何故、そんなことを思い出したのだろう?

  理由はわかっている。近所の小学校で行われていた運動会の音が、風に乗って部屋と運ばれてきたからだ。私が小学生だった頃とはまったく違うアップテンポの音楽をバックに、リレーの選手を応援する声や、迷子を知らせるアナウンスが耳に届くと、懐かしい思いと一緒に、母とすごした幼い頃の日々がいなおうなしによみがえった。

  突然、自分の意志とは裏腹に、涙がつうっと予告もなく流れた。

  私はその涙を女性バーテンダーに気づかれないよう、そっと手でふき取った。


 
葉石かおり
葉石かおり
(はいし・かおり)
エッセイスト
プロフィール
  ラジオレポーター、女性週刊誌の記者を経て、現職に。利酒師、焼酎アドバイザーの顔も持つ。
  「おひとりさま」のエキスパートとして各メディアで活動中。ひとり時間を豊かにする「おひとりさまマガジン」を主宰。
  現在、東京と京都の半々暮らし。
  西陣の老舗呉服屋・宮崎織物とコラボしたメイドイン京都ブランド「和をん」では手ぬぐい、帯ほか、酒小物も販売予定。
  近著に「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」(集英社)がある。
  また京都を舞台にした携帯小説「酒亭 心酔」がブックスレジモにて近日公開。
著作
「日本全国この日本酒がウマい!」
(KKベストセラーズ)
「隠れ酒がうまい!」
(講談社)
*「女は年下男が好き」
(講談社)
「あなたが辞めるといった時、上司は止めてくれますか?〜ゆるキャリのススメ〜」
(講談社)
*「ビバ!!年下婚」
(光文社)
「30代からの結婚がハッピーになれる!」
(三笠書房)
*「かっこいい女はおひとりさま上手」
(PHP研究所)
「実践!おひとりさま道」
(ライブドアパブリッシング)
「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」
(集英社)
「大人の蕎麦屋はここにある」
(集英社)
「産まない理由」
(イースト・プレス)
*は台湾、中国、韓国にて翻訳出版
 
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