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都心に存在するという「バー ラルム」は神出鬼没のバー。そこを見つけられることができるのは、
選ばれた人だけ。なぞめいた美人オーナーの出すアロマチックなおしぼりは、その人の心を解き放ち、向かうべき場所へと導いてくれます。今宵、その扉を開けるのは、「あなた」かもしれません。
 
 
第一回 恵みの雨


  「悲しいことを思い出すから」と言おうとして、はっとした。たった今、会ったばかりの人に私は何を言おうとしているのか、と。アロマの作用か、何故か心を許している自分がいる。まだお酒も入っていないというのに。

  「私は好きです。人にとっては少々厄介な雨も、植物にとっては恵みの雨。私たちが愛でる花や木々は、雨によって育まれたものですから」

  「恵み・・・・ですか」

  「ええ。それに雨はすべてのことを洗い流し、浄化さえもしてくれます。人の涙とよく似てるって思いませんか?涙もまた、神様が私たち人間に与えた恵みのひとつだって・・・・」

  「その言葉を聞き、私が何故、3年たった今も雅人を忘れられないかが、わかったような気がした。涙とともに心の膿を流していないからだ。

  「私は「雅人に嫌われたくない」と思うあまり、いつも自分の感情を押し殺してきた。どこかで彼を信用しきれていなかったからだ、と思う。敏感な彼はそれを感じ取ったのだろう。あの時、もし私が泣いて彼を引き止めたなら、状況は変わっていたかもしれない。そう思った瞬間、大粒の涙があふれた。涙を止めようとした手に、彼女はそっと新しいおしぼりを握らせてくれた。

  「すいません、私・・・・」

  「いいんです」


 
葉石かおり
葉石かおり
(はいし・かおり)
エッセイスト
プロフィール
  ラジオレポーター、女性週刊誌の記者を経て、現職に。利酒師、焼酎アドバイザーの顔も持つ。
  「おひとりさま」のエキスパートとして各メディアで活動中。ひとり時間を豊かにする「おひとりさまマガジン」を主宰。
  現在、東京と京都の半々暮らし。
  西陣の老舗呉服屋・宮崎織物とコラボしたメイドイン京都ブランド「和をん」では手ぬぐい、帯ほか、酒小物も販売予定。
  近著に「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」(集英社)がある。
  また京都を舞台にした携帯小説「酒亭 心酔」がブックスレジモにて近日公開。
著作
「日本全国この日本酒がウマい!」
(KKベストセラーズ)
「隠れ酒がうまい!」
(講談社)
*「女は年下男が好き」
(講談社)
「あなたが辞めるといった時、上司は止めてくれますか?〜ゆるキャリのススメ〜」
(講談社)
*「ビバ!!年下婚」
(光文社)
「30代からの結婚がハッピーになれる!」
(三笠書房)
*「かっこいい女はおひとりさま上手」
(PHP研究所)
「実践!おひとりさま道」
(ライブドアパブリッシング)
「女利酒師とソムリエールが選ぶ今宵最高の一本」
(集英社)
「大人の蕎麦屋はここにある」
(集英社)
「産まない理由」
(イースト・プレス)
*は台湾、中国、韓国にて翻訳出版
 
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